
バンコクで、日本人旅行者に関係する対照的な2つのニュースが話題になっています。
一つ目は、日本人TikTokerがカオサン通りで公開した「スリ検証動画」です。
映像では、日本人投稿者がポケットから財布を目立つように出して歩き、現地の男性に財布を抜き取られたように見えました。
ところが、実際のスリ事件ではありませんでした。
投稿者が現地の男性に財布を取る動きを依頼し、本物の窃盗事件のように見える形で編集した、演出された動画だったのです。
動画に映った男性は、本物の窃盗犯であるかのように誤解され、仕事にも影響が出ました。男性側は警察へ被害を届け出ています。
そして、ほぼ同じ時期。
バンコクでは、トゥクトゥク運転手が日本人旅行者の落とした財布を発見しました。
財布には約1万5,000円の現金、クレジットカード、身分を確認できる書類などが入っていましたが、中身は何も抜かれていませんでした。
運転手は観光警察と協力し、その日のうちに日本人旅行者へ財布を返しています。
一方は、起きていないスリ事件を作った日本人投稿者。
もう一方は、日本人旅行者が落とした財布を中身ごと返したタイ人運転手。
並べて見ると、SNS動画の影響力と、旅行先を一つのイメージだけで判断する危険性について考えさせられるニュースです。
今回は、この2つの出来事から、SNS動画の怖さと、タイ旅行中に必要な防犯対策について紹介します。
動画でも解説しています
この記事は、当YouTubeセカンドチャンネル動画をもとにしています。
今回の2つのニュースについては、YouTubeでも解説しています。
動画で確認したい方はこちらをご覧ください。
カオサン通りの「スリ検証動画」は演出だった

一つ目の舞台は、バンコクのカオサン通りです。
カオサン通りは、世界各国から旅行者が集まるバンコクの有名な観光エリア。
安い宿泊施設、飲食店、バー、マッサージ店、衣料品店などが集まり、特に夜は多くの旅行者でにぎわいます。
そんなカオサン通りで、日本人TikTokerが、
「タイで財布をポケットから目立つように出していたら、スリに遭うのか」
という趣旨の動画を公開しました。
映像では、投稿者が現金を入れた財布をポケットから大きく出した状態で歩き、周辺で働く人たちから財布を抜き取られたように見える場面が収められていました。
動画だけを見れば、
「カオサン通りでは、財布を出して歩くとすぐに盗まれる」
「バンコクの観光地は非常に危険だ」
と感じる内容です。
しかし、その後、投稿者自身が動画は演出だったと認めました。
財布を取ったように見えた人たちは、実際に窃盗を行ったわけではありません。
投稿者から依頼を受け、財布を抜く動きをしただけでした。
男性は財布を取る演技を依頼されていた
報道によると、投稿者はカオサン通りで働く人たちに、ポケットから財布を取る動きをしてほしいと依頼しました。
出演への対価として、金銭などを渡す約束もしていたとされています。
問題は、財布を取る動きをしたこと自体ではありません。
その映像が、本物の犯罪行為のように受け取られる形で公開されたことです。
特に問題となったのが、カオサン通りで働くミャンマー人男性です。
男性は撮影で求められた動きをしたものの、後から自分が本物のスリ犯のように編集され、顔が分かる状態で公開されるとは認識していなかったと家族側は説明しています。
動画を見た外国人旅行者や周辺の人から、
「この男性は日本人旅行者の財布を盗んだ人物だ」
と思われるようになりました。
演技として財布を取っただけなのに、インターネット上では本物の犯罪者として扱われる。
これは、単なる「ドッキリ動画」では済まない問題です。
動画によって男性の仕事にも影響
動画の影響は、SNS上の批判だけではありませんでした。
男性の家族によると、動画が拡散したことで男性の仕事に影響が出て、勤務を続けることが難しくなったとされています。
男性の妹を名乗る人物は、兄が窃盗犯のように見せられるとは知らなかったと説明。
投稿者に対し、事実関係を勤務先へ説明し、責任を取るよう求めました。
投稿者は家族から連絡を受けた後、謝罪と事実説明の動画を作成。
男性の勤務先にも事情が伝えられ、投稿者側の説明では、その後男性は仕事に戻ることが認められたとされています。
ただし、男性側が受けた影響が、これだけですべて解消されたとは言えません。
一度、
「カオサン通りで財布を盗んだ男性」
という映像が拡散されれば、動画を削除しても、保存された映像や切り抜き、スクリーンショットが残る可能性があります。
元の動画だけを見て、その後の謝罪や訂正を見ていない人もいるでしょう。
誤った印象が、本人の知らないところで残り続ける可能性があります。
男性側は警察へ被害を届け出た
男性は、カオサン通りを管轄するチャナソンクラーム警察署へ被害を届け出ました。
報道では、動画によって名誉を傷つけられ、仕事に影響が出たことに加え、カオサン通りやタイ観光のイメージにも悪影響を与えたと訴えているとされています。
2026年7月13日時点では、警察への届け出後、法的手続きがどのように進んでいるかは公表されていません。
そのため、
「投稿者が謝罪したので、事件は完全に解決した」
という状況ではありません。
謝罪動画の公開と、警察による法的判断は別の話です。
投稿者は再生数を求めていたと謝罪
投稿者は謝罪動画を公開し、再生数を得ることを優先して動画を作ったと認めました。
また、
- 動画に出演した男性
- 男性の家族
- タイ
- カオサン通り
- タイ観光のイメージ
へ迷惑をかけたとして謝罪しています。
問題となった動画については、SNSや動画投稿サイトから削除したと説明しました。
事実を説明し、男性が仕事へ戻れるように対応したことは必要な行動です。
何も説明せず放置するよりは、謝罪と訂正を行った方がいいでしょう。
しかし、そもそも実在する人物を、本物の犯罪者に見える形で公開しないことが大前提です。
謝罪動画を公開しても、最初の映像で受けた損害や恐怖、誤解がすべて消えるわけではありません。
「少しやりすぎたドッキリ」では済まない
個人的には、今回の問題は、
「再生数を狙って少しやりすぎた」
という程度の話ではないと思います。
人を窃盗犯に見せる動画だからです。
例えば、
- この人に財布を盗まれた
- この店でぼったくられた
- この運転手にだまされた
- この地域は犯罪だらけだ
といった内容は、非常に注目を集めやすいと思います。
犯罪、トラブル、危険情報は、旅行者にとって関心の高いテーマです。
しかし、起きていない出来事を、本物の事件として受け取られるように公開すれば、映された人の生活や仕事が壊れる可能性があります。
さらに、映像を見た人が、
「タイでは財布を簡単に盗まれる」
「カオサン通りで働く人は信用できない」
と考える可能性もあります。
一人の投稿者が作った映像によって、実在する人物だけでなく、地域や国全体のイメージまで変わってしまうわけです。
映像があるから事実とは限らない
今回の出来事で、見る側も覚えておきたいことがあります。
それは、
映像があるからといって、必ずしも事実とは限らない
ということです。
スマートフォンで撮影された動画を見ると、実際にその場で起きた出来事のように感じます。
文章だけの投稿より、映像の方が信じやすいでしょう。
しかし、動画には、
- 撮影前の打ち合わせ
- 出演者への依頼
- 撮影されていない前後の状況
- 編集で削除された場面
- 音声や字幕の追加
- 意図的な場面の並べ替え
があります。
映像自体が本物でも、見せ方によって意味は大きく変わります。
特に、犯罪や旅行先の安全性に関する動画を見る場合は、一つの投稿だけで判断せず、現地報道や公的機関の情報も確認した方がいいでしょう。
捏造動画でも、防犯対策が不要なわけではない
今回のスリ動画が演出だったからといって、
「カオサン通りではスリ対策をしなくていい」
という意味ではありません。
動画の捏造と、混雑した観光地で防犯対策が必要なことは別の話です。
カオサン通りのように、多くの旅行者が集まる場所では、次のような基本的な対策を取った方が安心です。
- 財布をズボンの後ろポケットに入れない
- スマートフォンを後ろポケットから出したまま歩かない
- バッグのファスナーを閉める
- 混雑時はバッグを体の前に持つ
- 飲食店でスマートフォンをテーブルの端に置かない
- 現金やカードを一つの財布にまとめすぎない
- 酔いすぎて荷物の管理ができない状態を避ける
これはカオサン通りに限らず、東京、パリ、ローマ、ホーチミン、バンコクなど、人の多い場所で共通する対策です。
必要な防犯対策は行う。
しかし、捏造された一つの動画だけを見て、その街全体を犯罪だらけだと決めつけない。
この両方が大切だと思います。
トゥクトゥク運転手が日本人旅行者の財布を発見

二つ目は、対照的に少しうれしくなるニュースです。
2026年7月13日、バンコクのターチャン周辺で、トゥクトゥク運転手兼露店商のタナワットさんが、落とし物の財布を発見しました。
ターチャンはチャオプラヤ川沿いにあり、王宮やワット・プラケオ周辺を訪れる旅行者が利用するエリアです。
運転手は財布を自分のものにせず、王宮周辺で旅行者をトラブルから守る取り組みに参加している人たちのLINE連絡グループを通じて、財布を発見したことを報告しました。
情報はバンコクの観光警察へ伝えられました。
財布の中には約1万5,000円とカード
観光警察が財布の中身を確認したところ、持ち主を特定できる書類が入っていました。
さらに、
- 約1万5,000円の現金
- 複数のクレジットカード
- 身分関係の書類
- その他の所持品
が入っていました。
書類から、持ち主が日本人旅行者であることが判明。
警察が旅行者へ連絡し、その日のうちに財布を返すことになりました。
現金もカードもすべて残っていた
同日午後4時30分ごろ、財布を発見したトゥクトゥク運転手と観光警察が、日本人旅行者へ財布を返しました。
旅行者が中身を確認したところ、現金、カード、書類など、なくなっているものはありませんでした。
日本人旅行者は同行者とともに初めてタイを訪れており、その日の夜に帰国する予定だったと報じられています。
財布がないことに気づいた際は、現金やカードを含め、すべて戻ってくるとは思っていなかったそうです。
帰国直前に財布をなくした場合、旅行者は非常に困ります。
現金だけでなく、カードや身分関係の書類が入っていれば、
- カード会社への連絡
- カードの利用停止
- 警察への届け出
- 帰国便への影響
- 空港までの移動費
- 海外旅行保険への連絡
など、多くの対応が必要になります。
その財布が、当日中にすべてそろった状態で戻ってきたわけです。
日本人旅行者は「またタイへ来たい」と感謝
財布を受け取った日本人旅行者は、トゥクトゥク運転手と観光警察へ感謝しました。
報道では、この出来事によってタイに対して良い印象を持ち、安心して旅行できる場所だと感じたこと、また将来タイを訪れたいと話したとされています。
最初は、
「帰国直前に財布をなくした」
という最悪に近い出来事でした。
しかし最後には、
「現地の人が中身ごと返してくれた」
という、タイ旅行の印象を良くする出来事へ変わりました。
財布を返した運転手の行動
個人的には、運転手の行動は素直に立派だと思います。
財布には約1万5,000円の現金が入っていました。
それを抜き取らず、カードや書類もすべて残したまま、持ち主を探すための連絡を行った。
さらに、観光警察とともに旅行者へ返すところまで対応しています。
財布を見つけたときに、
「近くへ届ければ終わり」
とせず、持ち主へ戻るまで協力した点も印象的です。
トゥクトゥクに対して、
「料金交渉が難しい」
「観光客向けの高い料金を提示される場合がある」
という印象を持つ日本人旅行者もいるでしょう。
実際、利用時には料金を事前に確認する必要があります。
しかし、すべての運転手を一つのイメージで判断するのも正確ではありません。
旅行者へ高い料金を提示する人もいれば、落とした財布を中身ごと返す人もいます。
職業や国籍だけで、一人ひとりの人間性を決めつけないことが大切です。
正反対に見える2つのニュース
今回の2つのニュースは、非常に対照的です。
一つ目では、日本人TikTokerが、実際には起きていない窃盗事件を作りました。
その結果、カオサン通りで働く男性が、本物の窃盗犯のように見られ、生活や仕事に影響を受けました。
二つ目では、タイ人のトゥクトゥク運転手が、日本人旅行者の財布を拾い、現金もカードも抜かず、警察を通じて返しました。
一つ目の動画だけを見た人は、
「タイの観光地にはスリが多い」
と思ったかもしれません。
二つ目のニュースだけを見た人は、
「タイでは財布をなくしても必ず戻ってくる」
と思うかもしれません。
しかし、どちらか一つの出来事だけで、タイ全体を判断することはできません。
親切な人もいます。
旅行者を狙う人もいます。
困っている旅行者を助ける人もいます。
これはタイだけではなく、日本を含むどの国でも同じです。
SNSは街の現実を極端に見せることがある
今回、最も考えさせられるのは、現実の街そのものより、SNS動画の方が強いイメージを作る可能性があることです。
刺激の強い動画は、多くの人に見られます。
「普通に旅行をして、何も起きなかった」
という動画より、
「財布を盗まれた」
「ぼったくられた」
「危険な目に遭った」
という動画の方が、再生されやすいでしょう。
その結果、実際には一部の出来事であっても、
「その国では誰もが同じ被害に遭う」
ように感じてしまいます。
さらに今回のように、出来事自体が演出だった場合、存在しない危険を事実のように広げることになります。
動画を作る側には、再生数だけでなく、映された人や地域にどのような影響が出るかを考える責任があります。
見る側にも、動画をすぐに事実として受け入れず、他の情報を確認する姿勢が必要です。
海外旅行で財布をなくさないための対策
親切な人が拾ってくれる可能性はあります。
しかし、財布が必ず戻るとは限りません。
旅行者としては、まず財布をなくさないことと、なくした場合の被害を小さくする準備が重要です。
現金とカードを分ける
すべての現金とカードを一つの財布へまとめないようにします。
普段使う少額の現金とカードだけを持ち、予備の現金や別のカードはホテルの金庫など、安全な場所へ分けておく方法があります。
財布を後ろポケットに入れない
ズボンの後ろポケットは、落としたり、抜き取られたりしても気づきにくい場所です。
ファスナー付きのバッグや、体の前で管理できるポーチなどを利用した方が安心です。
カード情報を控えておく
カードを紛失した場合に備え、カード会社の緊急連絡先を確認しておきます。
ただし、カード番号やセキュリティーコードを安全性の低い場所へそのまま保存するのは避けてください。
パスポート情報を保存する
パスポートの顔写真ページや航空券、海外旅行保険の情報などを、安全なクラウドや同行者と確認できる場所へ保存しておくと、紛失時の対応に役立ちます。
車両を降りる前に座席を見る
トゥクトゥク、タクシー、配車アプリの車、バスなどを降りる前に、
- 財布
- スマートフォン
- パスポート
- バッグ
- 買い物袋
があるか確認します。
シートの上や足元も一度見てください。
帰国日は特に確認する
帰国日は、ホテルのチェックアウト、空港への移動、荷物の整理などで慌ただしくなります。
移動するたびに、
財布、パスポート、スマートフォン
の3つを確認する習慣をつけると、紛失のリスクを減らせます。
財布をなくした場合にすること
財布が見当たらない場合は、早めに動くことが重要です。
まず、最後に財布を使った場所と移動経路を確認します。
次に、
- 利用した飲食店
- ホテル
- タクシーや配車サービス
- トゥクトゥクの乗降場所
- 観光施設
- 観光警察
- 最寄りの警察署
- クレジットカード会社
- 海外旅行保険会社
へ連絡します。
カードを紛失した場合は、不正利用を防ぐため、カード会社へ利用停止を依頼してください。
配車アプリを利用していた場合は、アプリ内の乗車履歴から運転手やサポートへ連絡できることがあります。
警察への届け出が、保険の請求やカード会社との手続きで必要になることもあります。
まとめ:一つの動画だけでタイ全体を判断しない
今回は、バンコクで起きた日本人に関係する2つのニュースを紹介しました。
一つ目は、日本人TikTokerがカオサン通りで公開した、スリ被害を装った動画です。
投稿者は周辺で働く人たちへ財布を取る演技を依頼し、実際の窃盗事件のように見える動画を公開しました。
動画に映ったミャンマー人男性は、本物の窃盗犯のように誤解され、仕事にも影響が出ました。
投稿者は再生数を得ることを優先していたと認め、謝罪しています。
男性は仕事へ戻ることが認められたとされていますが、警察へ被害を届け出ており、その後の法的手続きについては公表されていません。
二つ目は、バンコクのターチャン周辺で、トゥクトゥク運転手が日本人旅行者の財布を発見したニュースです。
財布には約1万5,000円の現金、クレジットカード、身分関係の書類などが入っていました。
運転手は観光警察へ報告し、その日のうちに日本人旅行者へ財布を返しました。
現金もカードも含め、なくなっているものはありませんでした。
起きていない犯罪を作った日本人投稿者。
日本人旅行者の財布を正直に返したタイ人運転手。
対照的な出来事ですが、どちらか一方だけでタイ全体を判断することはできません。
必要な防犯対策は行う。
同時に、刺激の強いSNS動画を一つ見ただけで、その国や地域を決めつけない。
この2つを忘れないことが大切だと思います。
皆さんは、この2つのニュースを見て、どのように感じましたか?
海外旅行中に財布やスマートフォンをなくし、無事に戻ってきた経験はありますか?
また、SNS動画を見て危険だと思っていた場所へ実際に行ったら、印象がまったく違ったという経験があれば、ぜひコメントで教えてください。
参考情報
出典:Khaosod English「Japanese TikToker apologises over staged Khao San pickpocket video」
出典:The Thaiger「Japanese TikToker faces backlash for fake pickpocketing video on Khao San Road」
出典:The Thaiger「Bangkok tuk-tuk driver returns Japanese tourist’s lost wallet」
出典:Pattaya Mail「Japanese tourists praise Thai tuk-tuk driver after lost wallet returned」
この記事は、当YouTubeセカンドチャンネル動画をもとにしています。



